5150のフロイドローズについて考える

5150のフロイド設定について
前置き:

この内容は
過去の通説に反する内容となっております。
従って、反論や気分を害される方がいらしゃるかもしれませんが、
あくまで私が個人的に感じた事とご理解頂ければ幸いです。

その5150のフロイドについての過去の通説ですが、

@FRT-5のプロトタイプを使っている
Aボディトップにベタ付け
Bスタッドの部分でナイフエッジ


が主な内容と思います。これらを順を追って考察します。

 @5150のフロイドはFRT-5プロトなのか?
通説通り、確かに5150に搭載されているユニットは現行のFRT-5とはビミョーに違います。
ベースプレートが近いとされているFRT-7ともビミョーに違います

右の写真は量産型。フランケンに搭載されている時期の物ですが、
写真中の2つのコメントに注目しておいてください。

 
量産FRT-5と5150実機との一番判り易い違いは

ベースプレートのファインチューナ周辺のコーナーが量産型が鋭角に対し、
曲がり方がゆるやか
です。
(右の写真は5150実機)

これは、プレートを曲げて(プレス加工)作ったと思われ、プロトタイプの特徴。
型に流して(鋳造)作った量産とはここに違いが出ます。
当然材質も変わるはず。
これで5150はFRT-5プロトを使った可能性がグンと上がります。
同じ緩やかなアールを持ったものにFRT-7がありますが、
弦のロックボルトを通す長穴の
長さが違い、
FRT-5はそのコーナーの少し手前まで、FRT-7はコーナー間近まで穴が空いています。

なお、いくら形状が近いとはいえ、
FRT-7はフェルナンデス製なので5150がFRT-7を使った可能性については
突き止める必要は無いと思っています。
次に、”Floydroseの刻印がずれている”事も量産品との判り易い違い。
こちらは量産型FRT-5のFloydroseの刻印。
プレートの余白センターに刻まれているのが判ります
写真はFRT-7。Floydrose刻印が外側にオフセットしています。
5150実機も同様にずれています。
このズレもプロトタイプの特徴として語られています。

この点と、ファインチューナ根本の曲がり具合が、5150実機とFRT-7とで酷似している為、
レプリカ作成時にFRT-7が重宝がられる理由だと思います。
FRT-7を5150レプリカに使う際に残念な点は、
前述のロックボルト用の穴の長さに加え、ファインチューナーのローレット
(ギザギザの刻み)の違いがある事です。
右の写真はFRT-5。
 コインの様なギザギザですね。
FRT-5に比べ、FRT7は山の高さもピッチも大きい、まるで王冠の様な粗いギザギザです。
滑りにくいメリットはこちらの方が上ではありますが、ちょっと残念な感じは
否めません。
知っていて比べればの範疇なので、マニアが手放さない超入手困難なFRT-5プロトを
探すことを考えれば、ここは妥協しても充分でしょう。
ファインチューナノブ位はを交換しても良いですね。
 
 結論:
5150のユニットは、FRT5量産ともFRT7とも違い、
FRT-5プロトの特徴を持っています。
よって、5150に搭載されたユニットがプロトか否かについては通説通りプロトだと思います
 Aボディトップのベタ付けは本当か?

ボディエンド側から写した写真にて広まっているフロイドローズのボディベタ付け、
これは写真が証明する通り、その通りだと思います。(
Fig1)

が、その通りだとすると問題があります
(ナイフエッジの話は後述するので、ここでは問題として取り上げません)

ご存知の通り、フロイドのサドル(駒)はベースプレートにベッタリと固定されています。
シンクロナイズドトレモロみたいな駒ごとの高さ調整ができません。

つまり、
弦高調整はフロイドユニット全体の上下でしかできない。だから、
そのユニットをボディトップにベタ付けすると言う事は、

ブリッジでは弦高調整が全くできないと言う事になってしまいます。

では希望の弦高を実現するためにはどうするか。

駒の高さがフィックスされた状態で弦高を変化させる方法はたった二つ。
      
ネックの反り調整で無理やり合わせる
    ・ネックとボディの接合角度を調整する。
これしかありません。

この条件でギターを調整する場合、理想的には、
ネックコンディションが完璧に合った状態でネックポケットの仕込み角を微調整し、
弦高をきっちり合わせ込んだ状態にしておいてから、日常のネック反り調整をマメにやる。

ここに尽きると思います。

仕込み角の微調整と簡単に書きましたが、元の状態をFig2-1とすると

・弦高を上げたい場合、ネックエンドをFig2-2の様に傾斜を付ける
・弦高を下げたい場合、ネックポケットをFig2-3の様に傾斜を付ける、
 もしくは、ネックのヘッド側をFig2-4の様に傾斜を付ける
 (エディの実機にはFig2-4を行った形跡が見られる)

双方とも0.1o削っただけで0.3〜0.4oも12Fの弦高が変化してしまうため、0.1o単位の調整は
ほぼ不可能だと思って良いと思います。特にボディ側を削るのは凹の中を削るので難しい。
実際には「削り」ではなく、削る反対側にシムを挟む事で対処する事になると思います。
が、紙の場合はコピー用紙(0.1mm弱)以下の厚みでの調整になりますし、金属となるとアルミ箔。
凄くシビアな調整が必要とされます。
ちなみに、私はここに紙の様な柔らかい素材を挟むのは賛同できません。

この仕込み角をガッチリ決めたうえで、ネック反りの調整をこまめにやるしかなく。
弦高が2o以上がお好みの場合は若干弦高が変わっても許容範囲は広いのですが、
弦高1.5o以下にする場合、ネック反りの調整頻度が格段に増えるはずです。
ユーザーにこの反り調整のスキルがあるか、もしくは信頼を寄せるショップが
近くにあって、頻繁に対応してもらえるのか。
そうでなければフロイドべた付けセッティングのギターを維持する事は
とても困難な事です。

しかも、他の要因でこのバランスが崩れた際は、たとえロッド調整できるユーザーでも
ショップのリペアのお世話になるしかありません。

しかし、エディにはもちろんそのスキルがある。
しかもステージではギターテクが万全の体制でスタンバイしている

だから、5150のベタ付けセッティングは、エディ本人用ではアリだとは思います。
しかし、そんなお抱えギターテクを用意するのは一般人にはムリ。
ましてやエディ本人のネックや忠実なコピーモデルのネックは塗装をしていないので
温湿度変化にはメチャクチャ弱い。


まとめると、
現実的にユニット全体をベタにすることは、極限で戦う戦士が
ピンポイントで得るべきコンディションを維持するには
向かないと思います。
しかも自身で調整するスキルがなかったり、お抱えギターテク
(もしくはショップ)を持たない方は、ユニット全体ベタを
維持する事は非常に困難と言って良いでしょう。


これらを柔軟に回避する方法は、ボディエンド側はベタ付けにしたとしても、スタッド側は
フローティングさせてスタッドでの調整範囲を確保する
事だと思います。
要は、ユニット全体を尻下がりにセッティングすると言う事です。たとえ1o以下でも。
そうすることで、ネック調整回数は激減するでしょうし、ネックエンドアジャストのロッドを、
ボディの小さな凹みから無理矢理調整するよりも遥かに楽で即効が良いです。

結論、ボディエンド側のベタ付けは通説通りだが、スタッド側をベタ
(ユニットを全ベタ)にして弦高調整機能をキャンセルするのは
調整がシビアな為に実用には適さない。

実はエディも全ベタにはしていない!

その証拠写真がこれだ!スタッド側が浮いている点に注目。

Fig1











Fig2-1


Fig2-2


Fig2-3


fig2-4






Bスタッドの部分でナイフエッジ加工をしているのか?

もちろんこの話はユニットをボディにベタ付けするかどうかと関連します。

まずは一般的なナイフエッジの効果について考えましょう。
そう、なぜナイフエッジが必要なのかを考えます。


シンクロナイズドトレモロの特徴としては、
ご存知の通り、ユニット全体をボディトップにベタ付けしてもアームダウンできるのが
事実です。一般的にそれは元からナイフエッジ加工がされているお陰と考えられています。
もちろん、全体をべた付けしても駒で弦高調整ができるので
Aで書いた全ベタ副作用(弦高調整可否)は起きません。
つまり、
シンクロではベースプレート全面をベタ付けしても、ナイフエッジのお陰でアーム動作に問題が
無いうえ、安定したチューニングが得られる。しかも弦高調整は自由自在!と言えます。


6本のビスの頭は、ベースプレートから通常0.5o〜1o程度浮かせた「遊び」を付けます。
これに、6本ビスのシャフトとシャフトを通すベースプレートとの「遊び」があります。
この2つの遊びもアームダウンには欠かせない要素で、頭を浮かせることはシンクロ調整の
基本です。
さらに、ナイフエッジによる空間。合計3点の「遊び」があります。Fig3-1
実は、シンクロがベタ付けでも充分なアームダウンができるのは、この3つの「遊び」
のお陰であり、どれ一つ欠けてもアームダウン量が大幅に制限されます。
Fig3-2

では、この遊びが一つでも無くなったらどうなるかを説明します。

ビスシャフトとベースプレートの穴の遊びは、後からどうなるものでもないので
ここでは考えませんが、
6本ビスの頭を締め込みすぎてベースプレートとの遊びが無くなった場合、
頭とプレートが干渉して(
Fig3-3の赤いギザギザ)、充分なアームダウンができません。
大陸製の激安ストラトでは、この遊びが無くてほとんどアームダウンできない個体
をいくつか見ました。
初心者が買うクラスでシンクロの本領が発揮されなかったら、また、こんな程度だと
思い込まれたら・・・そう思うと残念です。

さて話題のナイフエッジが無かった場合どうなるか。(ビス頭の遊びは有り)
今度はベースプレートとボディの干渉が追加発生し、やはり充分なアームダウンが
できません。
(Fig3-4の赤いギザギザ2個)

つまり、
シンクロユニットでベタ付けする場合はナイフエッジが
必要!というのは、ある程度ギターの構造を理解した
人にとって常識なんです。

だから、フロイドもベタ付けをしたらナイフエッジが必要!
と考えるのはその常識の延長なので、発想されてしまっても
仕方ありません。


Fig3-1 シンクロの遊び


Fig3-2 シンクロのアームダウン


Fig3-3 6本ビスの頭に遊びが無いと充分ダウンしない


Fig3-4 ナイフエッジが無いとボディと干渉し、ダウンしない

 では、フロイドの場合はどうでしょうか?

基本構成はFig3-5通りで、シンクロが6本ビスを支点にプレートが円弧運動するのに対し、
フロイドは2本の太いスタッドに刻まれたV型の溝にプレート側のV型 (本来はここもナイフエッジと
呼びますが、ナイフエッジと言ってしまうと混同するので、ここは単純なV型として表記します)が
点接触(若干線接触ではあるが)をし、そこを支点にプレートが円弧運動します。Fig3-5

シンクロはベースプレートの穴とビス、言い換えれば、筒の中に入った棒が、その直径差で
できた遊びの範囲でしか動けない故、ビス頭の「遊び」と直径差の「遊び」が必要でした。

フロイドは点で繋がっているだけ、極端に言うと、点接触すら離れても良い位、自由に動けます。 
だから、
シンクロで3つ必要だった遊びが二つ不要となり、ナイフエッジの遊び「一つ」に絞られました。

よって、検証はナイフエッジに注目となります。
本筋とも合致しますしね。

まずは、ベースプレート全面ベタを、Fig3-6-1の様に実験しました。

Fig3-6-1の通り、ベースユニットは全面ベタ付けにセッティングしました。

Fig3-6-2の様に、そんな状態でもアームダウンはできます。タルタルになる少し手前位までなので、
          それなりのダウン量にはなります。

その時に起きているスタッド付近の状態をFig3-6-3にて図解しました。


Fig3-6-3の図解を説明すると、

スタッドのVとベースプレートのVがズレています。
⇒すでにここが支点では無くなっています。

ベースプレートとボディは接触したままで、ボディをえぐり込む様に後ろへズレ気味に動きます。
その接点が新たに支点となった上で、ベースプレートのV型はスタッドのVから離れて上昇。
スタッドとベースプレートは完全にフリーになった状況でアームダウンが可能となっています。

結果、
全面ベタでもフロイドはアームダウンできる!
しかし、タルタルまで緩んでくれなければエディの音じゃない。はい、その通りです。

Fig3-5 フロイドの基本構成


Fig3-6-1 全面ベタにセッティング

Fig3-6-2 その状態でアームダウン

Fig3-6-3 スタッド付近の状態

では、タルタルにアームダウンさせるにはどうするか。

実はこの結論が、Aボディトップのベタ付けは本当か?に結びつきます。


Aの通り、スタッド側を浮かせたらどうなるか、を、Fig3-7で実験しました。


Fig3-7-1の通り、ベースユニットは後端のみベタ付けにセッティングしました。
           スタッド側の浮きは0.5o程度です。

Fig3-7-2の様に、全面ベタ付けよりもアームダウンはできます。アーム先端がボディに
           付いてしまうので、目いっぱいアームダウンできた事になります
           もちろん、タルタルまで行きました

その時に起きているスタッド付近の状態をFig3-7-3にて図解しました。


Fig3-7-3の図解を説明すると、

スタッドのVとベースプレートのVが僅かにズレています。が、全面ベタの時ほどズレていません。
スタッド側の浮きがある為、ベースプレート先端がボディに接触するまでは、支点が
スタッドに残ったままで、通常のアームダウンと同じ動きをします。(Fig3-8)
その後ボディに付いた時点(Fig3-9)からは全面ベタ同様に支点がスタッドのVから
ベースプレート先端へと移動します。

つまり、ベースプレートの可動域が全面ベタに対して、スタッドVに支点が残る範囲分だけ
付加され、アームダウン量がさらに広がっている訳です。
スタッド側の浮きが大きければ大きいほど可動域はさらに稼げると言う訳です。
実際にはスタッド側だけ浮かせるのも限界があるので、1o以上の浮きは副作用が
あるかもしれません(未検証)

ここでデメリットですが、
ベースプレート先端がボディと接触し、支点となりながら動く為に若干ボディをえぐる
形になります。
えぐる部分でのボディの凹みや塗装の剥がれが発生してしまいます。
ただ、ここは見えるところではありませんので、機能優先と割り切っても良いかもしれません。

まとめると、

Aで書いたベースプレートのスタッド側を浮かせる事と、
ナイフエッジが無くてもアームダウンできる事実は相乗効果であり、
セットでセッティングや語られなければなりません。
が、この2つのポイントさえ押さえれば、このページ最上段にある写真のセッティングを
再現しつつ、ナイフエッジ無しでも充分なアームダウンができることになります。

さて、タイトルである、
Bスタッドの部分でナイフエッジ加工をしているのか?
の答えは、ナイフエッジ加工をしていない(する必要もない)
と結論付けたいと思います。

なぜ通説はナイフエッジ必須の様になってしまったのか。

一つは冒頭に解説した通り、シンクロではユニットベタ付け=ナイフエッジ、
これはもう間違いない事実であり、ギター界にとっては常識的な話です。
だから、
フロイドもユニットベタ付け=ナイフエッジ
という公式が認められてしまうのも仕方ありません。
ここまで解説した人は居ないと思いますし。

但し、ここまで判っていて、ボディが少しでも傷を付くのがイヤなのであれば
ナイフエッジ加工をしても良いと思います。
また、ナイフエッジをした方が支点がスタッドのみに固定されるので、スムーズな
動きに徹したいのであれば、やはりナイフエッジ加工も良いと思います。
 

Fig3-7-1 後端のみベタ付けでアームダウン

Fig3-7-2 アームダウンした状態

Fig3-7-3 アームダウン時のスタッド周辺


Fig3-8


Fig3-9

結論、
たとえフロイドでベタ付けマウントをしたとしても、

ナイフエッジをしなければならないという通説は否定させて頂く。

且つ、Aの結果でスタッド側が若干フロートすると、プレート先端のえぐりも少なからず解消されるのでナイフエッジは必須ではない。

ただ、スムーズな動きやセッティングの余裕を考えた結果のナイフエッジはアリだと思います。

なぜそんなにナイフエッジ無しにこだわるのか、それはエディの5150がナイフエッジになっていないからです。
このページはエディの5150レプリカをいかに本物へ近づけるかが目的ですから。

その証拠写真はこれだ!

  

色々と書きましたが、総合的な結論としては、

@5150に搭載されているフロイドはFRT-5のプロトタイプである。

Aフロイドのベタ付けはボディエンド側のみで、スタッド側はフロートしている

B 5150のフロイドはナイフエッジ加工をしていない

以上、リアル5150にこだわる方に参考になればうれしいです。